【其の二十三】働き方改革
ここ最近できていなかった洗濯を今日こそはやる。
そう意気込んだ私は洗濯機の中に溜まりに溜まった洗濯物を無理やり押し込み、洗剤を入れ、スタートボタンを押した。
十五分後、洗濯機が自我を持ったのかと疑うくらい暴れ出した。
なんとか癇癪は収まったが、後遺症はいかがなものか。
詰め込みすぎたのが原因なのだろう。
結局、これは万物に通じる。
私という資本家が、洗濯機という労働者をこき使おうとしたツケなのだ。
家電たちの蜂起により、
我が家にもいつか平等を志す幽霊が現れる。
【其の二十二】虚像と実像
テレビの画が煩わしくなり、
音に鬱陶しさを感じ、私はテレビを消す。
暗いテレビに映し出されるのは私。
どの番組の画よりも見ていられる。
食器の音が予想を超えて鳴る。
どのSEにも勝る聞き心地。
【其の二十一】シャットダウン
子供はかくれんぼで見つかったときに、自分の目を瞑ることで、見つかったという現実から目を背けることがあるらしい。
私も一人暮らしを始めてからその気持ちに共感するようになった。
これを書いている今の私の状況は洗い物していない、米炊いていない、冷蔵庫に何も入っていない、風呂入っていない、歯磨きしていない、布団敷いていない、就活準備していない、彼女できる気しないなど。
あげればキリがない。
目を瞑りたい現実である。
しかし私のような大人は目を瞑るだけでは満足できない。大人なので。
私はソファに横になった。
私のような大人はもはや寝るのだ。
目を瞑るだけでは足らない。
脳も瞑るのだ。
なにやら冷蔵庫から異音が聞こえる。
うるせぇ知るかばーか!おやすみ!
【其の二十】腐るということ
豆腐とは豆が腐っていることを、一番舌で感じることを可能とする食べ物だ。
納豆はまだいい。腐っているが、そこから這いあがろうとする気概がある。
豆腐はだめだ。すっかり諦めているし、今の地位に満足してしまっている。向上心の無い愚劣極まりない食べ物。腐りきっている。根っこの部分だよ。根っこの部分。
【其の十八】精神の瓦解
窓を覗くと青空が私を包み込もうとするが、
北向きの部屋なので寒い。
「である」ようで「でない」のだ。
時計の針が私の心臓が脈打つタイミングで、コツコツコツコツ鳴り響く。
風呂の換気扇が私の吐息が出入りするタイミングで、ゴウゴウゴウゴウ喚いている。
私の身体であるのに支配するのは私ではないようだ。
【其の十七】謎の踊り
実家にいた頃は、コロナ禍の運動不足解消のために毎日ラジオ体操第一・第二を朝夜に取り組んでいた。
しかし、一人暮らしをするようになってからはバイトのシフト数も増え、買い物の回数も増えたので運動不足は解消されるように。
ラジオ体操の必要性もないので、最近はしていない。
その影響なのかはわからないが、部屋で謎の踊りをすることが増えた。口角をあげ謎の笑みを浮かべながら肩を右肩左肩と小刻みに揺らしているのだ。しかも無意識にだから怖い。
幻のラジオ体操第三だったりして。