【其の四十ニ】ゴキブリ
バナナの皮や納豆のゴミが散乱している家に帰り、一息つこうと思うとき、何やら黒い影が動くのが見えた。
ゴミにしては自我を持った動きであったな、私以外に意思を持つ者はこの部屋にいないはずなのに、と思いつつ覗くとゴキブリ。
最初はじっと見つめていて特に感情が湧かなかったのだが、床を叩いて挑発してみると、信じがたい速さで逃げていった。
その瞬間、訪れる戦慄。
「怖い」。
私は彼がこの空間においては私より強いということを認識した。
しかも私は重大なミスを犯していた。
実は引っ越してきたときに、ゴキブリグッズを揃えようか迷ったのだが、私は大したことないとたかをくくり、購入を見送っていたのだ。
このままではまずい、と思った私は食洗剤スプレーを利用することを決意。
ゴキブリに一生懸命注ぐこと3分。
よし、やったか?
と思い、安堵したのもつかの間、
彼は動いていた、さらには羽根も開いていた。
身体の至る細胞に電撃を食らった私は、
泣き叫びながら、食洗剤スプレーを更にくらわした。
5分後、彼はお亡くなりになった。
私が未熟でなければ、彼は健やかに生き延びたのかもしれない。
その夜、私は泣く泣くコンビニまで向かい、
ゴキブリ用スプレーとコンバットを手にとった。